コラム:環境で刺激する育成

 

北島康介という人は、本当に凄い人ですよね。

「これだけ必死に頑張っても、4年間で100分の1秒しか縮めることができない。改めて厳しい世界だと思ったし、同時に100分の1秒の重さを感じることができた」

ここまでの道のりを何度もドキュメント映像でも見ていましたし、このコメントを見ても、どれほどの努力と自分との戦いを乗り越えてきたのかと想像すると「凄い」という言葉を使うことが適切なのかすら躊躇してしまうほどです。今回、残念ながら個人でのメダルは獲れませんでしたが、それでも、本当に素晴らしい泳ぎを見せてもらいました。

ところで、この記事を読んでいて前述のようにいくつもの心に響く内容があったのですが、その中の1つ、私が「大事だな」と改めて思ったのはこのくだり
「北島が日本選手権で何度も口にしたのが「後輩からの刺激」だった」
若手からすると出場枠を争う相手とはいえ、北島康介と言えば生半可の存在では無いでしょう。でも、北島選手は彼ら後輩からの「刺激」を一つのモチベーションにしていたのです。組織を運営する時、個人へのスキル指導は皆さん力を入れるのが当然として、いろいろな仕掛けを講じていると思いますが、別の目線で見ると、どんな環境を整えると伸びるのか?という視点で環境を整備することも非常に大事なポイントです。

人には一人で努力をしていてもできない種類のブレイクスルーというものがあります。それを仕掛けていける1つの要素が「環境」。今回の記事と関係する視点で見ると「誰と近くで働かせるか」というポイントです。若手が後輩が入ってくることで、急に言動が逞しくなったりというのはよくありますが、このような自然と創られる環境だけではなく、意図的にブレイクスルーする環境を上司が整えてやるのです。部下の中にもいろいろなタイプがいるでしょう。その顔ぶれを眺め、誰と誰を近くでやらせてみることで、もしくは誰と誰を意識させてやることで、本人の刺激となり、ブレイクスルーへのキッカケを生み出すことができるか?ということに想像を巡らせてチーム編成をしたり、競わせてみたり、指導させてみたり。人数的に無理な組織もあるかもしれませんが、ただ「先輩だから君が」というような組み合わせ方ではもったいないですよね。他人との比較や競争は意味が無いという意見もありますが、私はそうは思いません。上司が、意味あるものになるようにすれば良いだけです。少なくとも私はそういった環境がきっかけで、驚くほどの成長、進化というブレイクスルーを果たす部下をたくさん見てきたので、そう信じられるのです。

1+1=2には収まらない化学変化を起こせそうな組み合わせを、ご自身の組織でも模索してみてはいかがでしょうか。北島選手のように自らをとことん追い込める人ですら、「後輩」という周囲の刺激がさらにレベルアップへのキッカケとなるのです。うまくお互いを意識させる仕掛けにすることで、きっと、従来と同じメンバーなのにアウトプットレベルが上がる組織は、少なくないはずです。