コラム:メンター制度

人材育成の有効手段の1つとして「メンター制度」があります。
私は、適任者が確保できるのであれば、積極的にこの制度を採用していくべきだと考えています。

但し、あまり「メンター」という言葉に引っ張られすぎるのも良くありません。大事にしたいのは、何のためにという目的です。それは、「新人がスムーズに仕事や職場になじみ、より早く活躍できる人材になるようサポートする」ことであり、メンター自体は目的を遂行するための「役割」の1つにすぎません。

メンター制度がうまく機能していない組織では、メンターを置くこと自体が目的になってしまい、「何のためにメンターを置くのか」「メンターの役割は何か」という本来の目的が、かなり漠然としている傾向にあります。上司が「面倒見てやって欲しい」とざっくりと任せてしまっているのが、その典型例です。メンターが責任を負うべき範囲は、仕事のやり方指導から、タスクの管理、人間関係の構築、メンタルケアなどかなり広範囲で難易度も高いにもかかくわらず、ざっくりとメンターに振ってしまったことで、当然の結果としてサポートもまたざっくりとした大ざっぱなものになってしまいます。これは、メンターを置こうと考えた上司の思いとはズレている状態なはずです。

メンターを置こうと思った目的を見誤らないためには、まずはどのようなサポートが必要かを整理し明確にすることがスタートです。できれば、若い社員や社内に居なければ家族など、新人の年齢に近い世代の視点も取り入れると、上司の視点だけでは気付けなかった要素のヒントが得られるでしょう。

次にその役割を誰に任すか。ここはとても大事なポイントで、基準は

「新人にとって、誰が担当するのがベストか」

に置きましょう。メンターは、先輩社員という条件だけで「面倒見てやって欲しい」程度に、入社2~3年目という若手社員に任されているケースも散見されますがこの人選条件は適切だとは言えません。

例えばメンターに求められる役割の大枠を整理してみると
 1.ビジネスマンの基本的なあり方の指導
 2.職場での仕事の進め方、ルールの指導
 3.新人のタスク管理
 4.メンタルケア
代表的なところはこんな感じでしょう。
(先に提案した新人に対して必要となるサポート内容を整理する時はもっと細かくこの中身を洗い出してください)

これらの役割を、入社2~3年目というそもそも本人がまだまだ一人前への道半ばという若手が、仕事の傍らで十分に果たすことができるでしょうか?。特に、若い先輩社員の多くは、まだ自分のメンタルコントロールに苦労している世代であり、それで後輩のメンタルケアの責任を持つというのは相当難易度が高いはずで、むしろ若い先輩のメンタル負担を重くするだけのケースもありえます。

だからこそ「新人にとって誰がベストなのか」という基準で新人のサポートを任せる人選をすることが大事なのです。また、その担当が一人である必要はありません。むしろ、必要なサポートを整理したときに、その全ての適任者が誰か1人になること自体、正しい判断になっているとは言い難いのではないしょうか。(もちろん、組織の人数が少ないために、やむなく一人がに担うしかないこともあるとは思います。)

一番お勧めなのはチームでサポートするメンター体制を整えることです。複眼で観ることで大事なサインを見逃すリスクを減らすこともできます。また、在宅勤務スタイルが広まる中、「相談がしづらい」という若手の悩みをよく耳にしますが、メンターを特定の1人に任せてしまったときに、その人と相性が合わないと相談は著しく減ってしまうでしょう。それがチーム体制になっていれば、いろいろな人に相談を持ち掛けやすいはずで、相談や悩みの種類によって、話しやすい人や良い回答を得られる人が違うので、新人にとっては安心できる環境になるはずです。

その上で、メンターチームへの人選条件をヒントを最後にお伝えします。

・ある程度の経験を持ち、日々発生する働く上での疑問や問題に
 しっかりとアドバイスができる人。
・自分の仕事がマネジメントできている人
・何よりも「人」に関心を持てる人

私の考える最低限のメンターを任せられる人の条件はこれです。

若い人材のヘルプサインを察知するためには、「人」への関心は重要ですし、自分の仕事もまわせていないのに手のかかる若手指導の現場責任者はできません。こう考えて頂くと、やはりこの条件を満たせるのは2~3年目よりももう少し経験を積んだ人のほうが、該当してくる確率はグッと上がってくるのではないでしょうか。もちろん、メンターという役目を設けるまでもなく、上司がこの役目を果たせるのであれば言うことはありませんね。

ちなみに、メンターというのは何も社内の人であることは絶対条件ではありません。目的は、適切なメンタルケアやアドバイスが実践できることであり、外部の人材にそのような役割をお願いしているケースもあります。役職者の人が、外部に自分にとってのメンターを確保している人もいますので、新入社員に対して同じような対応をすることも1つの方法ということです。どうしても、社内の人員的に無理があるのであれば検討されてみてはいかがでしょうか。

私共、組織営業総研でも、若手育成サポートの一環としての外部メンター相談を承ります。