コラム:孫子に学ぶ営業の鉄則-1

 
少し大げさなタイトルに見えますが、孫子の名言の中でも最も有名な一文であり、高い業績を上げ続けられる営業となるために不可欠な重要要素に通じる一文があります。

彼を知り己を知れば、百戦殆うからず

恐らくこのコラムをご覧頂いている方はほとんどの方がご存じなのではないでしょうか。ちなみに、この部分が群を抜いて有名ですが、続きの文章があります。

彼を知り己れを知れば、百戦殆うからず
彼を知らずして己れを知れば一勝一負す
彼を知らず己れを知らざれば、戦う毎に必ず殆うし

構成としては3段階となっていますが、当然一番大事なのは1文目の「彼れを知り己れを知れば、百戦殆うからず」で、これを営業にあてはめると「彼れ」は競合であり、「己れ」は自社という事になります。ビジネスにおける営業現場では、余程の独占企業でない限り商談において競合他社が存在することは日常であり、大きな商談になればなるほど、その傾向は顕著でしょう。そういった営業現場の実態に添ってこの名言を読み解く上でポイントとなるのは、百戦勝てるかはさておき「競合他社が当たり前に存在する商談で勝つためには、自社の商材のことも競合の商材のこともよく知っておく(理解しておく)必要がある」ということです。これは、孫子に学ぶまでもなく、実は営業として高い業績を上げていくためには不可欠なポイント、まさに鉄則です。

きっと多くの方が「何を今さらそんなの当たり前のことを」と思っていますよね?

そうです。当たり前です。

しかし、営業力強化コンサルティングで現場に入ってみると、この「自社と競合それぞれの商材について、正しく知っている(理解している)」という当たり前が「適切に」実践できている営業担当や営業組織がどれほど少ないかということに驚きます。もちろん、営業担当であれば、誰しもそれなりには自社・競合の商材について知ってはいるので、「全く出来ていない」というケースはほぼ無いのです(これが中途半端に出来ているという誤認を生む要因でもあります)が、本当の意味で「自社・競合の商材について知る」ことがどういうレベルを指すのかを知っている人間からすれば、その「出来ている」の程度が浅かったり、薄っぺらかったりするというのが実情です。

私の感覚でいけば、営業力強化コンサルティングの序盤で実態ヒアリングをした時に、この「自社と競合それぞれの商材について、正しく知っている(理解している)」が適切にできている営業担当がいる確率は10%程度です。組織としてココをしっかりと取り組めているとなると数%程度ではないでしょうか。そして、その一方で、事前ヒアリングの段階で上司の方が「自社の営業担当は、自社・競合の商材について、適切に理解できている」と答える率は7~80%なのです。このような大きな乖離が起きる要因は、上司が現場実態を正しく把握できていないケースと、上司自身が「自社と競合それぞれの商材について、正しく知っている(理解している)」ことについて認識が甘いケースにわかれるのですが、それよりも大事な事実は、前線の営業担当が「自社・競合の商材について、適切に理解できていない」まま営業活動をしているということです。

Thumbnail10 この状況が引き起こす現場の問題は、わかりやすいところでは「本当は獲れる商談を失注する」ですね。獲れる商談の失注を繰り返すとどうなるかは言うまでもありません。
そして、もう1つの大きな問題が「不要な値引き」が常態化するということです。競合した商談で仕様面で差別化が出来なければ、あとは価格や納期という部分で勝負するしかなくなります。もちろん、消耗材などによくある「仕様面ではほとんど競合と差が無いために、価格や納期などで勝負するしかない」ことがあることはわかっていますが、正しく商材を理解し仕様面で「適切に」競合差別化が出来ていれば、不要な価格対応をせずとも契約に結び付けられる商談は存在します。営業力強化コンサルティングでは、個人別に商談内容をチェックしながら指導することもよくあるのですが、内容を掘り下げて確認していくと価格以外でも十分に競合差別化できることが判明し「この商談は値引き15%で獲ってますけど、どう考えても値引き10%以下でもいけましたよね」とか「この商談は値段交渉は強気でいって絶対大丈夫です。競合の仕様では、お客さんの課題解決はできませんよ。」という指導になることは頻繁にあります。

つまり逆を返せば「自社と競合それぞれの商材について、正しく知っている(理解している)」ことを正しく徹底実践することで、商談獲得率や価格交渉力が向上し売上や利益率があがります。例えば、これによって関連指数が数%~10%改善したとしましょう。個人ベースで金額に直してもインパクトは少ないかもしれませんが、全社の売上にこの割合をあてはめると、決して侮れない増額がイメージできるはずです。

営業スキルには、プレゼンスキル、交渉力などがありますが、今回取り上げている「自社と競合それぞれの商材について、正しく知っている(理解している)」はベース中のベースとなる要素です。ここが曖昧な人間がどんなに流暢にプレゼンが出来てもそれは底が浅く、お客様毎に響く内容にはなかなかなりません。ですから、弊社が只今限定公開中の【営業力チェックシート】(←Click!)でも、まず自社と競合に関する理解度を測っているのです。

これ、どこの組織にもいるエース営業担当は概ね出来てるいるかというと、案外そうでもないというのがまた難しいところなのですが、逆にエース営業が「自社と競合それぞれの商材について、正しく知っている(理解している)」をしっかりと出来るようになれば、さらに業績を伸ばせる営業になるという伸びシロの話しでもあります。

では、それはわかったから、まずは何からどうすれば良いのか?については、後編のコラム:孫子に学ぶ営業の鉄則-2で解説します。