コラム:人材育成にかける時間確保

 
少し古い記事ですが、以前のPresident Onlineにこんな記事がありました。

【人手不足より深刻な人材不足の危機】PresidentOnline 2014.11.4
一橋大学大学院商学研究科教授 守島基博氏

記事内でも言及されている「本当の問題は、実は人手不足よりも然るべき能力を持つ人材の不足である」という視点について私も共感します。そして、組織現場の実情としてその要因の一番大きなところは記事内でも同じく言及されているこの部分。

第二が、企業内の育成環境悪化である。わが国企業の人材育成の基本は、今でも現場育成である。仕事の遂行を通じて、仕事を覚える。それが基本だ。だが、こうした現場育成は体系づけられたものではないことが多く、現場の状態や現場の上司に大きく依存する。言い換えると、状況が人の育成を可能にしない状態では、現場育成は機能しないのである。

経営層の方々に社内での人材育成がうまく進められてないことについて伺っていると、その理由については「自社の管理職がうまく人を育てられていないのは、社内に人材育成ノウハウが無いからだ」というご意見が大多数です。確かにいろいろな意味も含めてそこに疑いの余地はないのですが、実は、社内でうまく人材育成が進められていない理由は体系づけられた人材育成ノウハウの不足と合わせて、管理職者が人材育成にかける時間の不足もかなり大きな問題なのです。実際、現場で人材育成に苦労している管理職の方々と話していても「なんとか部下を育成したい」「自分が部下を育成しなくてはいけないことは痛いほどわかっている」という気持ちは非常に伝わってくるのですが、そういった人たちが何よりも苦労しているのが「部下を育成する為に費やすことができる時間の確保」です。自社の人材育成が上手く進んでいないと思われる方は、試しに直近の一週間で構わないので、管理職者の業務内容をどんな事にどの程度時間を使っているか集計して確認してみると良いでしょう。いかに、人材育成に時間を使われていないか浮き彫りになるはずです。もちろん、その先には「では、どれくらいの時間を確保すれば適当なのか」という疑問もあるかもしれませんが、人材育成に苦労している組織はそれ以前にあまりにも人材育成に時間を取れていなさすぎるという状態になっていると思います。

管理職が人材育成に適切な時間を確保できていない理由ですが、大きく2つが考えられます。

1つは、組織または管理職自身の中で「業務内における実行優先度において、人材育成の順位付けが高くない」ということで、「優先度が低い」のではなく「様々な管理職に求められる業務の中で相対的に高く位置付けられていない」ということがポイントです。組織としての業務内優先度の意思統一が曖昧なケースもあれば、管理職の仕事を捌くスキルに原因があるケースもありますが、結果的に人材育成が「すべき事だとはわかっているけれど、手が付けられていない状態」になっているのです。人材育成は数字の獲得や書類の作成など、目に見えるわかりやすい成果がすぐには出づらいために、後送りにされがちという側面もあるでしょう。優先度を高く置けないがゆえに、管理職は自分の時間を別の業務へと振り分けて行ってしまい、結果、人材育成の為に時間を費やせない、費やさないという状態に陥っているわけです。

そして、もう1つの理由は実は1つめとも密接に関わるのですが「管理職の業務量が多すぎる」ということです。人材育成に苦労している管理職の方と話すと、多くの人に共通する特徴は「とにかく業務量が多い」ことです。上司からの指示が多すぎる、本人が周囲に仕事を振ることが下手などの理由で仕事を全部抱えがちなどの理由が特に顕著ですが、理由が何であれ全てをひっくるめた結果として、とにかく人材育成に掛ける時間が確保できない状況にあります。

これらの問題を解決する為には、

  1. 人材育成に現状どれくらい時間を費やせているか
  2. 組織として実務内で人材育成の重要度位置付けをどう設定するか
  3. 人材育成の当事者はそれが可能な業務量状態なのか

などについて、管理職者とその上司でしっかりと擦り合わせることから始めるべきでしょう。特に大事なのは【3】の実際に取り組むだけの時間を確保できるのか?という部分で、この検証と改善無くして実践は進みません。また、時間が確保できるか?を考える為には、「どのくらいの時間が必要なのか?」ということも考えなくてはいけませんし、その為には、育成対象となる部下の設定とその個人個人を「いつまでに、どのような状態へと育成するのか」が定まっている必要があります。もしかしたら、これを読んで「大変だ・・・・」と感じる方もおられるかもしれません。しかし、こういうことをしっかりと考えることなく、仕事のやり方「だけ」を教えていたら人が育つという考えでは育つ人材も育たないのです。