コラム:上司の当たり前という落とし穴

自分にできることが、必ずしも他人にもできるわけではないし、
自分の当たり前もまた、必ずしも他人の当たり前ではない。

こうやって文章に書いてみると、別になんてことはない当たり前の考え方、視点です。きっとこの2つポイントに大きく違和感を感じる人も少ないと思います。ところが、いざ管理職となって日々の中で部下を接していると、これが頭の中から抜けてしまっている上司をちょくちょく見かけます。特に、マネジメントが上手くいってない組織の上司の方には、この傾向が強いなというのが私の率直な感覚でもあります。

具体的にはどんな事が起きがちか?

「なんで<そんなこと>もできないんだ。」
「いや、普通○○するだろ」

と部下に対して思うことありませんか?

でも、これって冒頭の文章にある2つのポイントと根底にある問題は同じようなことですよね。後でこう思う時って、事前に部下に伝えるときなどに「自分の当たり前、できることは、相手も同じ」と言う<無意識の前提>を元に、動いてしまっているケースが多いのではないでしょうか。だから、自分の想定と違う結果になってしまった時に「何で?!」と思ってしまう。

もちろん、全てそうだとは言いませんが、人材育成にしても営業力強化にしても、お手伝いしている先で上司の方が部下に対して、不満や物足りなさを感じている場合、先ほどの定番フレーズ「なんで<そんなこと>もできないんだ。」「いや、普通○○するだろ」を口にされる場面によく遭遇します。「言われてみれば、確かにあるな」と思い当たるという方に「では、どうすれば良いか」について、1つの答えを紹介します。

それは、大事な指示やそれによる行動であればあるほど、自分の伝え方で本当に部下は理解できるのか?上司である自分が想定する行動が実践できそうか?をちゃんとシミュレートしてから、指示を行うということです。事前に上司がそれ考えてみて、心配なポイントを想定できれば、それを補えるような言葉や資料を準備しますよね?この事前行動を1つとるようにするだけでも、ずいぶん違うものです。「あれもこれも伝えなくてはいけない。他に伝え漏れはないだろうか」に終わらず、「ちゃんと伝わるだろうか?」と一呼吸おいて考える視点です。

私は常にこの【上司として伝える前の準備】を心掛けていましたが、複数の部下、特に一度に大勢に大事なことを伝える時は、事前に誰か部下を呼んで「こういうことを伝えるんだけど、この説明と資料でわかる?」というやりとりまでしていました。この時に相談する相手は、自分に近い理解力のある部下ではダメです。そういう部下は上司の意図、行間を汲み取れてしまうことが多いので、相談する目的が達せられません。そうではなくて、その時、その時、伝えたい内容を一番わかってほしい層や、聞き手となる相手の中で一番理解に不安が残る層から、事前の相談確認相手を選ぶのが正解です。
「そんな面倒くさいことを・・・・」と感じる方もいるかもしれませんが、もし想定通りに伝わらなかった時に、後で上司である自分にかかってくる手間と時間を考えれば、時間の先行投資としては決して無駄ではないはずです。それに、この事前やり取りで相談する相手を意識して変えることで、部下の理解力を確認する機会にもなるので一石二鳥でもあります。

また、自分の組織における仕事上の「当たり前、価値観、ルール」などは、日頃からどれだけ部下に伝えて、共通認識化できているかは大事なポイントです。これが共通認識化できているか否かの責任は上司の側にあります。わかってくれない部下に要因を求めても、そこには改善は望めません。伝わっていないのは「理解できない部下」悪いのではなく「上司である自分の伝え方が悪い」という視点で組織マネジメントを考えるようになると、結果的にはより上手く組織が回るようになるはずです。そして、ここでも大事な視点は、上司として共通認識化すべく発信できているかどうかではなく、「結果として大事なことについて部下と共通認識化できているか?」という視点で部下と接することです。

以前コラムに起こしたコラム:「伝える」と「言う」は違うもあわせてヒントを得て頂けるはずでなので、まだご覧いただけていない方は是非!